Columns|コラムシリーズ10【ものづくりに見る価値の創造】全10回

第9回 ものづくりの強みと弱み

前回はものづくりのプロセスについてお話しました。ものづくりがどのように進められるのかをイメージしていただくことができましたでしょうか。

このコラムでは初回の文末で「“ものづくり”は「ハードウエア(形あるもの)の製造」という狭義で扱っていきます」とさせていただきました。

戦後焦土と化した日本が一時期GDP世界2位にまで復活した要因を考える時、“ものづくり”が経済成長を支えた大きな柱の一つとして大きく貢献してきたことに異論を唱えるヒトは少ないと思います。

製鉄などの重工業産業だけでなく、車、電気機器といった軽工業産業の発展がありました。その時の日本の産業の武器は「品質」と「価格」でした。

車も電気機器もアメリカを中心としたメーカーが主導権を握っていました。

日本は田口メソッド(TM)と呼ばれる品質工学によって技術開発・新製品開発の効率化が図られ低コスト及び高品質、すなわち「安かろう悪かろう」ではなく「安くてもいいもの」を世の中に出すことで発展してきたと思います。

トヨタ自動車に代表される「カイゼン」活動は世界中に広まりました。

しかし現在“ものづくり”の主役は中国です。一時期中国産は「安かろう悪かろう」と思われるところもありましたが、現在はとても高品質かつ安い製品をどんどん出してきています。

労働力の安さが魅力となって日本などから製造拠点がどんどん中国に移転していき製造技術が中国に流入したことも大きな要因です。

そんな中国でも人件費が高騰し始め人件費の安い東欧諸国に製造拠点が広がっているようです。


ものづくりでは原材料と工程が同じであるとした場合コストに差をつけるのは最終的に人件費です。生産数量が多ければ機械を導入することでさらに人件費を安く出来ます。

大きな技術革新、または絶対的な人件費の安さがない限り一度築いた牙城はなかなか崩せません。

・ 同様の品質・コストを生み出すために多大な投資が必要

・ 生産性を向上させる習熟に費やした時間

ことがその理由です。参入障壁が高いのです。

人件費の非連続な安さが理由で、ものづくりの拠点は欧米→日本→中国→東欧と移り変わってきています。

また昔はメカニックだった車も今やコンピュータ制御と技術革新が進みその開発拠点は、ITの強いインドのような安くて優秀な技術者がいる拠点に移りつつあります。

参入障壁が高く築いたポジションを維持し易い一方労働環境、技術革新によってそのポジションを一気に失うリスクもあります。

一度失ったポジションはなかなか取り戻せないことはものづくりの拠点が逆流していないことを見てもおわかりかと思います。


ものづくりの別の特徴は「形あるものを生み出す」ことです。一度形状をかためると簡単に元に戻せません。

シミュレーション技術や3Dプリンターなどの発達で私が携わっていた頃より遥かに時間短縮されていますがそれでも試作して評価して分析してというプロセスは時間と費用を要します。

また一度世の中に出すと、問題が発覚して回収するというのは大変なことです。車でリコールや電気機器で不良品回収の話を耳にすることがありますが毎回大騒ぎです。


ソフトウエアの場合は、頭脳とパソコンがあればアウトプットを出せます。物理的な参入障壁がほぼないに等しいです。

またソースコードを簡単に手直しできるので簡単に元に戻すことが可能です。

携帯電話やアプリケーションでバージョンアップなんていうのは普通に行われています。不具合対応や仕様追加がハードウエアに比べて容易なので乱暴な言い方ですが未完成でも出荷が可能な面があります。

なので、開発から製品化までのサイクルは必然的に短くなります。


このように“ものづくり”は

・ 高額な機械投資を必要とする

・ 習熟と安い人件費が武器になる

・ やりなおしが効きにくい

・ 出荷時はある程度の完成度をもっている

・ 製品化まで時間を要する

という特質をもっていて強みと弱みの両面を有しています。



次回は最終回、ものづくりから学んだことについてご紹介します。

第8回「ものづくりのプロセス」

-第10回(最終回)「ものづくりから学んだこと」

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